このスズムシの妖怪は空を飛びます!
其の二十
『ああああ!!早ええ───!!!』
すさまじい速さで空を飛ぶヒカリスズムシ
飛行機を飛ばした時位ある、時速は80キロ位だろうか?
窓ガラスやシートベルトがあるモノと違い、そのままただ乗っているから
風圧がモロに体に掛かる。
もはや落ちないようにしがみついているのがやっとだ
ヒカリスズムシの体には少々産毛の様なのが生えているようだが
それが結構頑丈で、そこにキクが何とか張り付いている状態
ちょっと気を抜けば “あっ” と言う間に振り落とされる事だろう…
『と…止めでぐれぇ、落ぢるぅ~』
風圧で息苦しくなったキクが、涙ながらに叫ぶ
そのせいなのかは分からないが、“ふわり” と少しゆっくりとした飛び方になった
風に乗ったのだろうか
そう言えば、自分より体の小さな栗吉はどうしたのだろうか?
自分の事で精いっぱいだったからすっかり忘れていたが
確か前の方に座っていたな…!
ほんの少し余裕が出て来たキクは前方を見た
「優雅」
栗吉はキクと全く違い、もの凄く背の上でくつろいでいる
“アラやだ、くつろいでらっしゃる!!”
キクは驚くやら呆れるやらで、何となく思った
小さいから風の影響を受けにくいんだろうか?それとも妖怪だからか?
と、言うか自分も今は取り憑かれて妖怪になっているな~…
あ、だからこんな風圧にも耐えれるのかもしれない。
そんな事をチラっと思っていた矢先
ヒカリスズムシが突然急降下を始めた!
『ぎょはあああ』
ジェットコースターに乗っている様な体感にキクは気持ち悪くなって
思わず声にならない叫びを上げた
其の二十一
“さあぁ”
風に乗って何とも言えない香しい華の匂いが漂ってくる
七色に輝いて見える藤の花が風に揺られて
その芳香を漂わせているのだ!
樹齢何万年にもなる妖怪の里にしか無い宝の藤の樹は
その巨木から幾重にも枝を伸ばし、そこから藤の花房が数珠成りに咲いている
「お~っ、満開」
栗吉は、久々の光藤を堪能していた。
勿論、一番喜ばしいのはキクだろう、幻の三宝の一つに出会えたのだから!
…が
「これ…が…光…フ…おええっぷ」
げぷげぷ、と嘔吐をするキク
「酔ったんか…お前ぇ…」
折角連れて来た割にはゲロばかり吐いていてそれ所じゃないキクを
冷たい目で見据える栗吉。
その横ではヒカリスズムシシに変化していたお鈴が元の美女に戻っていた
あくびをしながら伸びをしている
妖怪変化と言うのは結構疲れるのだろう
「騒々ちいのぉ~」
ヒカリフジに着いた一行の傍に何者かが近寄って来た…次回へ続く!
この影は!何者だい!
